bajo la luz de la luna
『こいつは何か勘違いしてるようだがなぁ、一週間前なら、オレはフロレナ財閥の令嬢と見合いをしてたんだ。ここに居る部下達や、屋敷の人間達が証人だぜぇ。』

『だが、被害を受けた子はお前の名前を出したんだぞ!?これ以上の証拠が何処にあるんだ!!』

『そこがおかしいんだなぁ。オレはその子に会ったこともなけりゃあ、名前も知らねぇ。』



 両者の意見は食い違っている。大半の者が首を傾げる中、アタシは群が彼の部下と何やらコソコソやり取りしているのに気付いた。クリスさんが『ドン・チェーロ、どうした?』と尋ねると、群はボソリと口を開く。



『一つ聞きたいんだが……あんたの部下の娘は、ルッツさんの“名前”を言ったんだよな?“顔”を覚えてるかどうか、聞いてみてくれねぇか?』

『お前は何てことを言うんだ!自分を襲った野郎の顔なんぞ、二度と思い出したくないに決まってるだろう!!』



 クリスさんの言うことはもっともだ。傷付いた少女には、自分に近付く男性全てが恐ろしいものに見えてしまうのではないだろうか。そう思った時――群の目がスウッ……と細まり、クリスさんに向けられる。



『……だから、聞くんだろうが。』
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