bajo la luz de la luna
『……ボス、あの状況じゃ仕方なかったんですよ。ああする他なかった。』



 エンゾさんに優しいイタリア語で言われ、群が微かに頷いた。彼の他の部下達も、口々に『そうだそうだ!』と叫ぶ。それを受けて、群は静かに笑う。



『……悪かった。いつもは何とも思わねぇことでも、未来が居ると勝手が違うんでな。』



 そう言って、群は再びこちらへ向き直る。そして、少しだけ穏やかさを取り戻したその目を細め、切なげな声でアタシに問いかけてきた。



「……俺はまだ、お前に触れることを許されるか?」



 こんな群を見るのは初めてで、動揺しそうになった。まるで“自分は汚れた人間だ”とでも主張しているようなその台詞は、今まで聞いてきたどんな言葉よりも苦しくて、辛いものだった。

 群の気持ちが痛い程分かる。命の重さを知っている彼だからこそ、アタシは受け入れたいと思うのかもしれない。



「……許可を取るまでもなく“si”よ。当たり前のことを聞かないで。」



 すなわち“yes”。その答えに安心してくれたのか、アタシの頭にコツンと軽い一撃を送る群。それは、彼なりの“ありがとう”なのだろう。
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