bajo la luz de la luna
「……もうフィレンツェか?」



 寝ぼけ眼でそう聞いた群が、いつにも増して幼く見える。背が高い彼なだけに、そのギャップがとてもおかしくて愛おしい。



「おはよう。もうすぐ着くみたいよ。」



 微笑を浮かべて群にそう返してから、エンゾさんにイタリア語で『あとどれくらいかかるかしら?』と尋ねると、『もう二、三分で着陸体制に入るのでお気を付け下さい』との答え。頷いて、しっかりと座席に腰を据えた。

 ――いっときが経ち、機体は無事着陸を終えた模様。群の後に続いてジェット機から降り、並んで着陸帯を歩く。差し出された左手を右手で握りながら、いつでも利き手を空けておくことが染み付いてしまった彼に内心拍手を贈った。少しだけ寂しいけれど、この世界を生き抜くためには、アタシもこうならなければいけないのだ。



「どうかしたか?」



 アタシの僅かな感情の変化を察知した群が、そう尋ねてきた。彼は音にも心の動きにも敏感なのだ。改めて、驚かされる。



「……いいえ、何でもないわ。」



 そうか、と微笑する群の手は温かい。彼に覚えた安心感が、さっきまでの不安をそっと消してくれた。
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