bajo la luz de la luna

―la paz pasajera en Italia

 ――チェーロの屋敷に来るのは久し振りで、先日群がアタシの部屋に来た時の気持ちが何となく分かる。“空”という名前のファミリーだが、建物内は茶色を基調とした落ち着いた佇まいだ。所々に金の装飾が施され、広間へ向かう途中の壁には、独特な雰囲気の絵がかかっている。



「群、この絵を描いた人は?有名所でないわよね?」

「あぁ。まだ若かったんだが、日本では名の知れた画家だったらしい。一度会ってみたかったな……」



 その画家に対する事柄を、全て“過去系”で言った群。彼の寂しげな表情を見て、アタシは悟った。作者がもう、この世に居ないのだということを。



「この絵は、日本人の女の子が描いた遺作の複写(コピー)でな。俺がファンだって言ったら、彼女の両親がわざわざイタリアに送ってくれたんだ。」



 紺碧の空に手を伸ばす少女。窓の内側から掴もうとしているのは、夜空に浮かぶ消えそうな月だろうか。肩口にかかる黒髪は、月光でおぼろげに輝いている。



「この子、月を“掴もうとしてる”んじゃないんだってよ。何してると思う?」



 挑戦めいた台詞に続き、「タイトルを見てみろ」との言葉。それに従うと、漸く謎が解けた。
< 155 / 268 >

この作品をシェア

pagetop