bajo la luz de la luna
 元は左利きのアタシだけど、小さい頃の強制的な訓練により両利きにさせられた。食事やダンスの際、左利きだと何かと煩く言われるのだ。

 その訓練は修行中にも及び、壁に貼り付けた藁人形の指定された場所、もしくはその場所に最も近い壁にナイフを投げ刺すというもの――あれは、なかなか手こずった。何せ右手が思い通りの場所にナイフを投げてくれない。左手で百発百中なんだから良いじゃないかとダダをこねたこともあったけど、結果的に両手が使えるようになって良かったと思う。

 ――例え利き手が傷付いても、愛する人達を守ることが出来るから。



『……何処から撞いてもややこしそうね。』



 呟いて、標的(2番)を見やる。ポケットまでの位置関係が厄介だ。一旦手前の枠に手球を当て、それをクッションにして2番をポケットインさせなければならないという状況。少しでも狙いが外れたら球は落とせないし、プレイヤー交代だ。

 ――自信は、あまりない。



『ボス!頑張って!!』

『落ち着いていけ!』



 ソニアとグレイの声を背中に受ける。声援をよこさない、可愛くない秘書のことを頭に描きながら、手球を撞いた。
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