bajo la luz de la luna
『どうした。ビビってんのか?』



 挑発的な低音を発したのは、棕櫚の瞳の持ち主。視線で“喧しい”と一喝すれば、彼は笑いを堪えながら『悪い悪い』と口にする。この男は他人を挑発するのが趣味なのだと決め込んで、アタシは手中のキューを握り直した。

 姿勢を低くして、標的を見据える。対戦相手から送られる張り付くような視線、無言のプレッシャーをスルー。キューを後ろに引き、力を込めて前に押し出した。

 ――手球はまっすぐ4番にぶつかったのだけど、力及ばず、ポケットインには結び付かなかった。思わず、舌打ちする。



『良い線行ってたんだけど残念だったな。選手交代だ。』



 隣に寄ってきた男が嫌みったらしく微笑し、手球を置いてキューを構える。一連の動作に迷いは微塵もなく、彼の自信が見て取れた。とても絵になっている様。画家や写真家なら、その一瞬を切り取って自分の作品にしたいと思うのだろう。

 アタシは肩に手を添えて励ましてくれるソニアにお礼を言って、久し振りに見る彼のプレイに目を凝らす。勝ち負けは重要だが、この男の戦い方も、非常に気になるから。
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