bajo la luz de la luna
 沈黙を切り裂いたのは、球とキューがぶつかる軽い音。手球は4番に吸い寄せられるように転がって、鮮やかにそれをポケットインさせる。手球が意志を持って自ら動いているようにさえ見え、対戦相手ながら思わず感心してしまった。



『ボス、余裕ですねぇ。ですが、お嬢さんを侮ると痛い目に遭うかと思いますよ。“女性に優しく”と言っているのはボス自身ですよね?』



 エンゾさんがイタリア語でさりげなくアタシを励ましてくれていると分かり、小さく会釈する。彼は、爽やかなウインクを一つした。



『何だ?俺はいつでも優しいじゃねぇか。
それに、別に未来を侮ってはいねぇぞ?飲み込みが早くて逆に焦らされたくらいだ。』



 本当かどうか分からないことを言いながら、その目は次なる標的(5番)を捉えている。手球を移動させて、彼がやりやすい位置へ。それからキューを構え、ショットを放つ。手球に押された5番はあらかじめ敷かれたレールの上を進むかのように、まっすぐポケットへ転がっていく。途中6番に当たったが、ポケットに吸い込まれていった。

 ――その直後だった。5番に背中を押されるようにして、6番が別のポケットに入ったのは。
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