bajo la luz de la luna
 ラックで並べられたカラーボール達へ向かい、白い手球を発射する。ボールはまた上手い具合に散らばってくれたのだけど、どれもポケットインしなかった。

 ――マズイ、という思いが頭に浮かぶ。何故ならそれは、プレイヤー交代を意味するからだ。恐る恐る相手の顔を窺うと、思った通り、勝ち誇ったように艶笑していた。



『このセット、もうお前の出番はねぇからな。』



 だから黙って見とけ、とでもいうような口調と自信に満ちた表情が腹立たしい。今日が“ラ・トマティーナ(トマト祭)”の日だったら、アタシは確実にこの男へ向かって赤い実を投げ付けていただろう。

 トマトまみれにしてやりたいと洩らしたら、いつもは無愛想なガルシアが、珍しく控えめに吹き出した。グレイに『こら』とたしなめられたのだけど、我が秘書は『良いじゃないですか、想像するくらい』と生意気に返していた。



『おいお前ら。黙って観戦してろ。』



 重低音が響き、周りに注意を促す。その声の持ち主がキューを構えた時――その瞬間から、彼の快進撃が始まった。
< 180 / 268 >

この作品をシェア

pagetop