bajo la luz de la luna
 ――だから彼女は、アタシを天使だと言ったのか。行く宛さえなかった彼女に、名前と居場所を与えたあの日のアタシを。

 全部、繋がった。納得は出来ないけど……せめてイリスの前でだけは、彼女が望む自分で居たいと思った。



『……イリス。助けてくれて、ありがとう。』



 彼女の息が続く、この限られた時間だけは。アタシはマフィアではなく、彼女が好きな、ただの“未来”という人間になる。そう決めたから、今にもホルダーに伸びそうな手も噴き出しそうな思いも全て抑えて、イリスに精一杯の笑顔を見せた。そうしたら、小さな“虹”は、その由来にふさわしい笑顔を返してくれる。



『良かった……さっき怒られちゃったから、役に立てなかったのか、と……』



 細くなっていく声。アイスブルーが、ゆっくりと真珠肌の瞼に隠されていく。あと少し。あと少し、堪えなければ。



『みんな、あ……う……き、よ……』



 ――ポツリ、ポツリと聞こえた最期の言葉はスペイン語ではなく、彼女の祖国・フランスの言葉だった。でも、それを習得しているアタシ達には分かった。彼女がこう言ったのだと。



“みんな、ありがとう……大好きよ……”
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