bajo la luz de la luna
 ――どれ程の時間が経ったのだろう。嗅ぎなれたムスクとアンバーの混香に目を開けると、穏やかに微笑む婚約者が居た。その隣には仏頂面の秘書が立っている。アタシは重い体をそろそろと起こした。



「よく眠れたか?」

「ええ。欠席してしまってイリスには申し訳ないのだけど、足が進まなくて……」

「気にするな。あの子なら、お前の体を心配する筈だぜ。俺だってそうだ。」



 本当に、そうだと良いのだけど。あの子なら、確かにそう言って笑うのだろうけど。心の中には、這ってでも行くべきだったのではないかという考えが浮かぶ。

 アタシの思いを読み取ったのか、群は「自分を責めるなよ」と呟いた。だって、アタシがあの時あの場所に行かなかったら、こんなことにはならなかったのに。自分を責めるなというのなら、この感情を何処にぶつけたら良いのよ。



「……出来れば、お前の涙をこんな形で見たくはなかったんだがな。まだ泣き足りないなら泣け。ここに居てやるから。」



 抱き寄せられたら、まだ溜まっていたらしい感情が目から一気に噴き出してきた。昨日はほんの少し視界を滲ませた程度だったのに――群の腕の中で、アタシは子供みたいに泣いた。
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