bajo la luz de la luna
 泣いたことは、本当に少なかった。小さい頃、辛いボス修行に耐えかねた時くらいだっただろう。それが今、もう大人だと言われてもおかしくない年なのに号泣してしまっている。しかも、最も弱みを見せたくない人の胸に抱かれて。



「……アナタに二度も泣き顔を見られるなんて計算外だわ。」

「予想や計算は案外狂いやすいもんだぞ。そもそもお前、敵・味方関係なく一定の距離を置こうとするよな。
俺の前で、完璧で居ようとするのはやめろ。隠れて泣こうとしたって無駄だ。すぐに分かるからな。」



 クスクスと笑う群の声が、何故か心地良い。群にはいつでも格好の良い自分を見せたいと思っていたけれど、そうでなくても構わないと言ってくれたのだ。その言葉に、随分ホッとさせられた。



「……ありがとう。」

「礼には及ばねぇよ。お前の完璧主義は見ててハラハラする。あまり心配させるなよ。」



 目尻に溜まった涙を指で拭ってくれた群。その穏やかだった表情が、急に険しくなる。と言っても、眉が一瞬僅かに上向いただけだったのだけど。彼の些細な変化を見て、今では内面を少しだけなら読み取れるようになったのだ。
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