bajo la luz de la luna
 わざと金持ちらしさを装ったように指を飾る沢山の派手な指輪が、何処か不自然に思えてならない。最近のマフィアではこういう格好をする者は少ないのだ。彼の力量に間違いはないと思うけど……何なのだろう。彼は何かを隠しているのかもしれない。

 求婚相手の前で隠し事とは良い度胸だ。このことに気付いた人が何人居たかは分からない。でも、求婚されてきた女性達は知らず知らずの内に感じていたのだろう。女の勘は、大抵鋭いから。



『アナタが結婚出来ない訳、分かった気がするわ。』

『……今、何と?』

『皮肉ではなくて、純粋にアナタが婚期を逃している理由が分かったと言っているの。アナタ……』



 言いかけたアタシがあることに気付いた時。音もなく近付いてきた影に漸く意識が向いた。



「よう、未来。婚約者が居ない隙を狙って浮気か?随分と挑発的な行動に出るじゃねぇか。」



 懐かしい、コントラバスのようなトーンが成す日本語に顔を上げた。口元に笑みを浮かべた彼の、透き通るような飴色の髪がサラリと揺れる。黒みがかった棕櫚(しゅろ)色の目が、刺すようにアタシを捉えた。

 ――婚約者の、神小柴群(みこしば ぐん)だ。
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