bajo la luz de la luna
「おやおや……これはドン・チェーロではないか。僕がドン・ローサと逢い引きをしているから嫉妬しているのかな?」



 耳を疑った。目の前のメキシコ人から、ごく自然に日本語が飛び出したのだ。ちょっと、アンタさっきまでアタシとスペイン語で会話してたじゃないの。そう言いたい気持ちを抑え、耳を傾ける。



「へぇ、日本語が喋れるんだな。しかも流暢だ。何年勉強した?」

「三年、ですかね。貴方に通じたということは、ドン・ローサにも通じるということだ。」

「通じるが、残念ながら現代の日本人は“逢い引き”なんて言葉は使わねぇな。ジェネレーションギャップもいいとこだ。」



 クッ、と喉を鳴らして笑う群。彼もまた、時にマフィアらしくない一面を見せる。ドン・クレオと根本的に違うのは、群がウチと同等なファミリーのボスで、鮮やかなまでの指揮を取っているということだ。



「そうですか……ドン・ローサ、先程までは自信がなく日本語でお話が出来ませんでした。無礼をお許し下さい。」

「いえ、別に良いけど……」



 違和感が募った。低姿勢な彼が毎回待ち合わせに遅刻してくるのが理解出来ない。やはり女の勘は正しかったようだ。
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