bajo la luz de la luna
 ――もうすぐ芽吹きの季節だが、頬を掠める夜風はまだ少しだけ冷たい。小さい頃からよく登っていたけれど、一度も誰かを呼んだことのなかった屋根の上。隣に誰かが居るのは、これが初めてだ。



「フランシスコの奴、何だかんだ言って俺らを気に入ってくれたみてぇだな。」



 黒と灰色のストライプ柄をしたネクタイを緩めた群が、黒のスーツを直しながら言う。彼の母語である日本語になると、やはり気持ちが落ち着くらしい。アタシも同じ色をしたストールを、スカーレットのドレスを纏った肩に巻き直した。



「そうね。根は悪い人でないみたいだからホッとしたわ。」

「あいつ、早くに両親と死に別れたから、俺達の結婚を急かしてるのかもな。フェルナンドさんも長くねぇし、俺達自身もいつ死ぬか分からねぇし。」



 沁々とした台詞。棕櫚の瞳が、アタシの漆黒の瞳をまっすぐ見つめてくる。



「……お前、もうすぐボスになって一年だよな。フェルナンドさんとの約束、ちゃんと守れよ?お前がボスを辞める時を、人を“撃った”時にするな。」



 俺が言える立場じゃねぇけどな、と付け足した群。彼を見ていたら、不意にこう思った。
< 264 / 268 >

この作品をシェア

pagetop