bajo la luz de la luna

dos

　群と並んで廊下を歩けば、『ボス、お帰りなさい！』と沢山の声がかかる。あたしはその一つ一つに『ただいま』と返す。隣に居る婚約者が、何故かクスリと笑みをこぼした。　首を傾げていると、白髪の老夫、執事のマヌエル・コボスがそろりと近付いてきた。物音一つ立てないなんて、相変わらず丁寧な身のこなしだこと。



『お嬢様、お帰りなさいませ。群様、ようこそいらっしゃいました。奥で旦那様と奥様がお待ちでございます。』



　マヌエルは手短にそう言って、アタシ達をその場へ誘導すべく歩き出した。いつもは世間話を交えた陽気な会話を好む彼がそれを省いたところから、何やら急いでいるようだ。

　視線だけで群に話しかけると、どうやら彼もマヌエルの異変に気付いていたらしい。その目は“まぁ、任せようぜ”と言っている。アタシが静かに頷くと、二人で取り急いでいる執事の跡を追った。



「“奥で待ってる”って、妙におっかねぇな。」

「アナタからそんな言葉が聞けるとは思わなかったわ。」



　そんな会話をしながら数分。屋敷のほぼ中央にある会議室兼食堂を横目に、最奥部にある部屋の前に到着する。

　えも言われぬ緊張感――父の気配のせいだ。