bajo la luz de la luna
「……何だ?」

「アナタ、パパに話があるから来たって言ってたじゃない。違ったの?」

「話はある。それを今からする所だ。」



 棕櫚の目がギラリと閃光する。その妖艶さに息を呑んだ。ファルコンと呼ばれる所以(ゆえん)であるその両目を、アタシの父に向ける群。忠誠心を示すような典雅な態度で、艶(あで)のある唇をスッと開いた。



『未来は俺が守ります。この命に代えても……』



 迷いのないスペイン語とまっすぐな瞳は、嬉しくもあり悲しくもあった。だが、“今ここで”それを言う訳にはいかない。アタシは今やボスなのだ。ただのマフィアの血筋では、ないのだから。



『……お前の誠意は確かに伝わったぞ、群。だがな、“代えられて”は困る。お前には生きて、未来と共に歩んでもらいたい。』



 幸い、アタシが言いたかったことを父が口にしてくれた。密かに安堵の溜め息をつく。群は意表を突かれたらしく、暫く目を丸くしていた。やがて、フッ……と息を洩らし、両目を瞬いて答える。



『……ありがとうございます。』



 ――あぁ、やはりアナタは煙(ウモ)のように儚いわ。その笑みの裏側に、一体何を秘めているというのだろう。
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