bajo la luz de la luna
 不意に何かが髪に触れてきたと思ったら、それは群の手だった。細く長い、しかし屈強そうな指が、漆黒の束を一つ、優しく掬う。

 前々から思っていたことだけど、彼はどうやらアタシの髪が好きらしい。表情を窺いに、そっと目をやる。掬い取った毛束をサラリと掌から流しながら、群はもう片方の手で頬杖をついていた。

 ――交わってこない、朧げな視線。一体何を考えているのだろう。アタシには踏み込ませない領域なんて要らない筈だ。なのにどうして……



「……群。アタシ、ここに居るわよ?」

「……ん?」

「そんな顔をしないで。こちらまで不安になるわ。」

「……そう見えたのか?お前には。」



 微笑する群からは、先程まであった憂いが消えている。さっきまでの表情は嘘だったのかと思わされる。良くも悪くも、人を欺くのが得意な彼だから。

 父の前で不可思議な発言をした時も、彼の秘めたる思いは全く分からなかった。出会ってもう半年だが、それは長い人生の中の数パーセントにすぎない短い期間。無茶なことだと分かっているのに、アタシはつい願ってしまう。

 ――アナタが他人の心を読むように、アナタの心が覗けたら良いのに、と。
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