bajo la luz de la luna
 狂おしい程の熱情をアタシに起こさせる群の芳香は、時に媚薬――いや、麻薬のようだと思う。控えめに匂うそれは、両の手首からだろうか。

 頭上からの笑い声が、フッと消える。と同時に、柔らかい飴色の髪が首筋をくすぐった。



「……今日はゲランじゃないのか?」

「当たり前よ。第一、アナタが来ることなんて知らなかったもの。」

「そうか……じゃあ、“いつもの”未来だな。」



 群の台詞を聞き、短期間でよくアタシのことを熟知したものだなと思う。特別な日には特別な香りを纏うことにしているというこだわりは、何故か初対面から言い当てられた。彼の観察力と洞察力は、本当に素晴らしい。

 今アタシが纏っているのは“クロード”という、フランスに居る父の知り合いが経営する香水メーカーのもの。アタシのために若旦那が作ってくれた、“It's me.”という香りだ。シトロンがベースでありながらスパイシーな余韻が、なかなか気に入っている。



「……ライム・ウォーカーだったか?今の社長は。」

「ええ、群も一度会ったでしょう?」



 そう問えば、僅かに見える頭が微かに動く。一体いつまでこうしている気なのだろうか……
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