bajo la luz de la luna
「……行きましょう。」

「あぁ、そうだな。」



 先に腰を上げた群がこちらへ手を伸ばす。その手を掴んで立ち上がり、二人で部屋を後にした。廊下に漂っている夕食の香気は、アタシの大好きなパエジャだろう。「うまそうな匂いだな」と言った群の傍らで、思わず呟いていた。



「Pienso este olor la paella de langosta.」

「……何だ?」

「ロブスターのパエジャだと思う、と言ったの。気を付けてはいるのだけど、どうしてもスペイン語が先に出てきてしまうのよね。ごめんなさい。」



 群は不機嫌になるでもなく、「そうか」と言って微笑しただけだった。「スペイン語圏の人間は早口だから、なかなか聞き取れねぇんだよな」とこぼす彼に、心中で謝っておく。

 今夜は客人が居るから、いつもより更に手間暇かけた食事が出ることだろう。料理人のペドロやイサベル、マティルデ達が、腕によりをかけてくれた筈だ。



「今夜のワインはきっと上等よ。」

「お前、いつも良いのを飲んでるだろ?」



 そんな話をしている内に、両親と使用人達が待つ大食堂に到着した。アタシ達が席に着けば、談笑を交えた楽しい食事会が始まった。
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