bajo la luz de la luna
『グレイ、奥さんと子供とは連絡取ってるか?』

『ん?あぁ、一昨日電話したばかりだぜ!娘の3歳の誕生日でなぁ……って、何だ何だ?群さんはオレが羨ましいのか?』



 群は曖昧に笑って『まぁな』と告げ、娘の話を始めたグレイを、ほろ酔い加減のソニアと顔を引きつらせたガルシアに押し付ける。その手早さにルイ君やエリオさんが、ドン・チェーロの新たな特技発見だと笑い出した。

 当の本人はアタシの耳に唇を寄せ、『……だってよ。心配する必要ねぇみたいだな』と囁いた。彼の咄嗟の機転にはいつも、溜め息をつく暇もない程に驚かされる。



『……グラスが空だけど、カバとシェリー、どっちが良い?』

『あぁ、ならシェリーを頼む。つーかお前、ワインの種類覚えてるんだな。』

『ええ、父に教わったのよ。』



 スペイン産のワインが多いことに驚きつつも、独特の熟成方法で作られたというシェリーを群のグラスに注ぐ。ちなみにカバとはスパークリングワインであり、海外でも人気が高いらしい。

 グラスの中の液体を優雅に口へ運ぶ姿に、10メートル程向こうのテーブルに居る淑女が見とれていることに気付く。この男は……そう思って苦笑が洩れた。
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