bajo la luz de la luna

―el cargo importante

 鳴り響く電話が仕事の依頼を伝えた。書類に判を押していた左手を止めて、右手で白い受話器を取る。“通話中は利き手を空けておけ”というのが父の教えであり、15代目ボスの悲劇から学んだ教訓なのだそうだ。



『もしもし。』

『そちら、ローサファミリーの本部で間違いないですよね?』

『ええ、合っているわ。名前と用件を。』

『私はディエゴ・アロンソと言います。アンヘラという歌手のマネージャーをしているのですが、彼女はご存知ですよね?』



 アンヘラ――“天使”といえば、スペインで知らない者は居ない人気歌手だ。アタシは『ええ、勿論』と答える。この前miraiへ行く前にグレイが勧めてきたCDは、そういえば彼女が出した物だった。

 個人的な意見だと、彼女は“わざわざ甘く歌う必要はない”のでは、という気がする。彼女のような可愛い女性――大きな黒の瞳に長い睫毛・小ぶりの唇に絹肌の子はいかにもという甘ったるい声もウケるだろうが、力強さを売りにしたって良いと思うのだ。

 まぁ、本人の意志や事務所の方針もあるのだから、アタシの一言でどうこうなるものではないのだろうが。そう思いながら、アロンソ氏の喋りに耳を傾ける。
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