魔法使い、拾います!
リュイに寄りかかったままヴァルは二階建ての家を眺め、嬉しそうに目を細めた。

「あぁ……ここだ……。」

感慨深げにヴァルが呟く。

「……?家のこと、もしかして知っているの?」

「いいえ、まさか。ではこれからお世話になります。」

柔和な笑みで会釈するヴァル。ここまで強引に人の意見を無視する人だとは思わなかった。目の前に家があるのに、けが人を運び入れない訳にいかないではないか。

リュイは腹をくくり、ヴァルを担いだまま玄関の扉を開けた。

リュイの家は二階建てで一階が雑貨屋・二階が生活スペースになっている。今にも倒れそうなヴァルを二階まで運ぶのは至難の業だった。

階段を上る途中何度か滑り落ちそうになりながらも、やっとのことでリビングのソファーまでたどり着いた。

ヴァルの体重から解放されてリュイの身体は軽くなる。軽くなって嬉しいはずなのに、この重みをもう少し感じていたいと思うなんてどうかしている。

ブンブンと頭を振って、恥ずかしさを隠すためにリュイはパンと両手で頬を叩いた。この人には婚約者が居るのだ。婚約者のいる魔法使いを拾うだなんて、ごめん被る。

ヴァルはというと、意識がないのではと思うほどに微動だにしない。移動の魔法はヴァルにとっても大技で、滅多に使わないのだと、階段を上りながら教えてもらった。

大技だと体力の消耗も激しい上に、そもそもヴァルは怪我を負っている。今回ばかりはダメージマックスです、と言ってソファーに崩れ落ちたのだ。

「お医者様の所には絶対に行きたくないって言うしなぁ……。」

途方に暮れたリュイはどうしたものかと、しばらくヴァルの整った顔を眺めていた。

しかし全く動く気配のないヴァルを見ていると、まさか心臓が止まっているのでは?と段々不安になってくる。ためらいながらも声をかけようかと思った矢先、ゆっくりとヴァルの長いまつ毛が動いた。
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