魔法使い、拾います!
ヴァルの両親は魔法使いだった。

ルトアンゼは貿易で安定した富を得ている島国だったため、その富欲しさに度々隣国から攻撃を受けていた。魔法使いはその輩を相手に、市民に知られることもなく、秘密裏に水際作戦を決行させられていた。

魔法はどんな武器にも勝るため少数での戦を強いられる。しかし、所詮は多勢に無勢、ある戦でヴァルの両親は命を落としてしまった。

わずか三歳で孤児となったヴァルは、両親の魔法使い仲間ジョナの家に引き取られることになった。ティアはその家の一人娘である。ティアはヴァルより三つ年上で、本当の姉弟のように仲良く暮らすことが出来た。

そこで何不自由なく七年を過ごした後、二人は共に魔法使いの修行のため洞窟の宿舎へと行かされた。ヴァルが十歳、ティアが十三歳の時だ。ティアの父でありヴァルの育ての親であるジョナが、そこでの二人の師匠であった。

その師匠ジョナが修行先の洞窟で、まだ子供のヴァルとティアを婚約させたのだ。父からの命令とあれば断ることなど出来はしない。だが幸い二人共お互いの事を憎からず想っていたため、すんなりと婚約は成立した。

自分の娘と婚約させる事は、ヴァルがジョナの後継者になったことを意味する。当然、修行するヴァルへの接し方は以前に増して厳しくなった。それもジョナの愛である。ヴァルは必死に耐え、修行に励んだ。

修行を始めて十年。ヴァルは二十歳、ティアは二十三歳になっていた。

実践を積みながら厳しい修行に耐えた二人は実力を認められ、王都ハラでルトアンゼ王ピアの守護を命ぜられた。久しぶりに洞窟から出て住み慣れた王都の家へ戻った二人は、結婚に向けて新居を見つけねばならなかった。

登城初日。任命式で初めて王に拝謁したヴァルは、ティアを見るピアの貪欲な視線が気になった。まだ二十五歳と若く優秀な王には、王妃がいる。だからまさかとは思っていたのだが、ヴァルの脳裏に嫌な予感がよぎった。

着任早々、ティアにだけ二十四時間体制での王の護衛が言い渡された。ヴァルは不振に思ったが心配しつつもティアを送り出した。まだ新居も決まっていないこともあり、ヴァルも城にある執務室に泊まり込んで仕事をすることにした。

ティアが任務に就いて三日目の朝、部下がヴァルの所へ密書を届けに来た。中に書かれていたのは『会いたい』の文字。間違いなくティアの筆跡だ。心配になったヴァルはティアの職務内容を聴こうと、城内にある師匠ジョナの執務室へと向かった。

その時、ヴァルは廊下で下女たちとすれ違ったのだが、すれ違いざま『王が側室を娶ったみたいよ』と噂話をしている声を耳にした。まさかティアが……と、あの時の嫌な予感を思い出し背中に旋律が走る。

一刻も早くティアに会いたいヴァルの足は、無意識に速まった。なのに先を急ぐヴァルの前に、突如仲間であるはずの魔法使い達が立ちはだかる。全くこの状況が把握できないヴァルは、魔法使い達を問い質した。すると、ヴァルは『王の側室誘拐を企てる罪人』だと言われてしまう。

訳が分からないまま一方的に攻撃され、ヴァルは傷つきながらも何とか城を抜け出した。そして逃げ込んだ路地裏で、幸運にもリュイに拾ってもらえたのだ。
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