魔法使い、拾います!
リュイの心はぽっかりと穴が開いてしまったようだ。ただ、ヴァルの吸い込まれるような紺碧の瞳をぼんやりと見つめる。

「主?何か?」

ヴァルの魔力であろうか。紺碧の瞳に魅入られてしまう。

「ううん。ごめん、何でもない。」

ヴァルに問いかけられて我に返ったがリュイだが、自分ががっかりしている原因を封印するのが難しい。

……婚約者。

何度となく頭の中で繰り返されるこの言葉に、リュイは打ちのめされそうだ。ほんの少し素敵な人だな、なんて、大それたことを思ってしまった自分が恥ずかしい。身の程知らずもいいところだ。そもそもが、泣く子も黙る魔法使い様なのに。

「えーと。話は分かった。」

ヴァルにこれ以上深入りしてはダメだ。彼には婚約者がいるのだから。宿を提供するだけの関係でいなければならない。と、リュイは必死に自分に言い聞かす。

ともすれば、主と呼ばれた方が都合いいではないか。呼ばれるたびに自分の立場を思い出せる。

「ではこれより、私はあなたの主です。」

自分で言った主という言葉にチクリと胸が痛んだが、こんな感情は要らない。この胸の痛みが何なのかなんて知らない。リュイは無理矢理笑顔を作って誤魔化した。

食事が終わり後片付けを済ませると、リュイは自室へ、ヴァルは両親の寝室へと別れた。心も体も疲れ切っていた二人は早々に眠りに就くことにした。
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