魔法使い、拾います!
ヴァルは追手の魔法使いから逃れるため、自分に気配を隠す魔法をかけた。生きて活動している以上完全ではないが、魔法を使わなければ悟られるリスクは減るらしい。これと同じ魔法がティアにもかけられているのではないか、とヴァルは推測している。

そのせいもあってか、何事もなく無事に一夜が明けた。

今日も陽が昇るのと同じ時刻にリュイは窓の戸板を開ける。この時間にだけ、とても幻想的な一コマを見ることが出来るからだ。

カタは町全体が丘のようになっていて緩やかに傾斜している。夜明けとともに高い方から降りて来る紫色の薄い霧が、まるで川のせせらぎのように低い方へと流れ行くのだ。

夜の黒一色だった町が、紫色を経て清々しい陽の光へとその支配の場を明け渡す様は、毎朝見ても魅了されてしまう。リュイは大きく伸びをして夜明けの凛とした空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

身支度を済ませたリュイは、キッチンで朝食の用意をしていた。面倒でしかなかった自分のためだけの料理も、食べてくれる相手が居ると思えば楽しくさえ感じてしまうから不思議だ。

食事に限らず誰かのために何かをするということが、幸せを感じるものだったのだと思い知る。嫌々ながらの宿主だったはずなのに、たった一日にしてヴァルの存在は色々な意味でリュイを大きく変化させていた。

「おはようございます。主は起きるのが早いですね。」

階段を上がってきたヴァルが、匂いに釣られてキッチンを覗いた。出かけていたのだろうか。

「あっ、おはよ。ヴァルこそ早いね、どこへ行っていたの?お腹空いたでしょ?ご飯食べない?」

「やはりそうでしたか。外で修行していたのですけど、美味しそうな匂いがしてきたもので切り上げてきました。」

美味しそうな匂いだなんて言われては、照れるではないか。でもそう言ってもらえば作った甲斐がある。ご満悦でリュイは盛り付けたお皿をヴァルに渡した。
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