魔法使い、拾います!
リュイはグレンを抑えながら視線を動かしてみる。少し寝癖が残る無造作な髪形。着崩した普段着。この見た目ではとてもお坊ちゃまには見えないだろう。そこへきて上品さの欠片も感じさせない言葉使いでは、チンピラと誤解されても文句は言えない。

「おい、リュイ!なんだ、こいつ!誰がチンピラだ!」

「グレン落ち着いて。とにかく座って!」

何とかグレンをなだめて座らせたリュイは、ヴァルの許可を得て昨日からの出来事を簡単に説明した。せっかくのヴァルとの秘密が無くなるのは寂しいが、事情が分かってグレンの鼻息も静かになる。

しかし、彼にはどうしても気に入らないことがあるようだ。

「話は分かった。でもな、いくら婚約者がいると言っても若い男を泊めるというのはどうなんだ?何かあってからじゃ遅いんだぞ!」

明らかにあたふたしているグレンの気持ちはダダ洩れしていて、ヴァルはすぐにぴんときたようだ。しかし、間違いなくこの手の話に鈍感なリュイには、これがグレンのやきもちだという事が分からない。

「心配って……そんな大袈裟な。何かあったらって何?ヴァルは魔法使い様なんだよ。それにお店も手伝ってもらえるし、力仕事だって頼める。良いことばっかりじゃん。」

ヴァルに宿を貸すことの、何が心配だと言うのだろうか。リュイは心の底から不思議でならない。

グレンは頭も良くて次期町長に相応しい器量の持ち主ではあるのだが、リュイの事となるとどうも上手く立ち回れない。今日もやはりグレンの秘めた想いは、このまま秘められて終わりそうである。
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