魔法使い、拾います!
今までヴァルと話をしていて、両親や家の事を知っているのではないかと感じていた。今のチャムおばあちゃんの話を聞いてしまうと、その男の子がヴァルなのではないかと思えてしまう。

よくよく思い返してみれば、両親からペンダントをもらったのは十年くらい前だった気がする。ヴァルがこのペンダントに興味を示したのも、何か今の話と関係があるのかもしれない。

「ねぇヴァル、その男の子って……。」

「実に慈愛に満ちたご両親だったのですね。見ず知らずの男の子を助けてくれるなんて。一晩だったとしても、きっとその子は救われたと思いますよ。ご両親亡き今となってはご恩に報いることは叶いませんが、生涯忘れる事はないでしょう。」

聞こうとした矢先に遮られてしまった。隠すようなことでもない気がするが、隠したい事情があるのかもしれない。それとも本当に知らないのだろうか。

でもきっと、その子はヴァルだ。見ず知らずだったかどうかなんて、本人にしか分からないではないか。どちらにしても、ヴァルは言いたがらないのだ。無理に聞くのはよした方がいい。

昨日無理矢理ケガした理由を言わせたことを、リュイはこれでも反省しているのだ。そしてヴァルに嫌われたくないという思いが、リュイのそれを上回る。

「ところでマダム。何をご所望だったのですか?」

「あら、マダムだなんて恥ずかしいわぁ。さすがに王都から来た人は違うわねぇ。私、たわしが欲しいの。ふふふ…。」

ほんのりと頬を染め、チャムおばあちゃんはヴァルとたわしのある場所へ移動した。ニコニコとお客さんの相手をしているヴァルを見て、これがずっと続けばいいのにと思ってしまう。

さっき聞いた男の子がヴァルじゃなくても構わない。むしろヴァルが魔法使いなんかじゃなければいい。ティアの事だって……。王の側室になったのなら、それはそれで幸せかもしれない。

「わぁぁ!」

「どうしました、主!?」
< 35 / 100 >

この作品をシェア

pagetop