魔法使い、拾います!
その夜はとても楽しく過ごすことができた。いつでもどこでも眠れるのが特技のリュイが、眠気を忘れるほどだった。リビングのソファーで寛ぐヴァルの穏やかな口調に癒されて、リュイは久々に会話を満喫した。

「ヴァルはティアの事をいつから好きだったの?初恋の人……とか?」

「いつからと言われても、僕が物心ついた時には一緒に暮らしていましたから。ティアの事は姉のように思っていましたし。好きは好きですけど、初恋かと言われると……どうなんですかね。でも姉であり、同志であり、婚約者であるティアはとても大事な存在です。彼女なくして今の僕はない。」

紅茶の入ったティーカップを手の中で弄びながら、ヴァルは答えてくれた。

「でも今は婚約者でしょ?相思相愛なんじゃないの?」

「えぇ……好きですよ、ティアのことは。きっとティアも僕を好きでいると思います。だから婚約しろと言われた時も抵抗はありませんでした。僕を育ててくれた恩人の娘さんでもあるわけですから。」

「なんか冷めているんだね。婚約中ってそんな感じなの?良く分からないけど……こう……燃えるような想い……みたいなのが、あるのかと思ってた。」

そんな事を言いながらも、少しほっとしている自分がいる。ティアの事を惚気られたらどうしようかと思った。

「それは夢を壊して申し訳ありません。でも、僕たちは特別なのだと思います。ティアがどう思っているのか分かりませんが、僕は共に修行に耐えた同志みたいな気持ちの方が強いですから。熱烈に愛しているから結婚します!みたいな感覚は薄いですね。でも、興味はありますよ。夫婦になった時の、あんなことやこんなことに。僕も男ですから。ふふ…今から楽しみです。ティアを僕無しでは居られないようにしてあげますよ。」

淫らなことを妄想しているのか、目を細めて笑うヴァルに異様に腹が立つ。

「なんてこと言うの!もう!変態!」

リュイの反応を楽しむかのように、ははは…と声をたててヴァルが笑う。遊ばれたかと思うとリュイは少し悔しい気持ちになった。
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