魔法使い、拾います!
ヴァルは赤土を巻き上げながら道を駆ける。

「主―!?主、どこですかー?」

主はどこに?頼むから、この町に居て下さい。きょろきょろと死角になりそうな場所や物陰を見渡しながら、ヴァルはひたすらに走る。

リュイを探しながらも、ヴァルの脳裏には嫌な予感しか浮かんでこなかった。感じた魔法は移動なのだ。しかもこの魔法を使えるとすれば、守護長クラスの魔法使いである。だとしたら行く先は王宮。しかも北の執務室のはず。

とうとう丘を下り切り、ヴァルは林の方まで来てしまった。日頃の修行の成果もあってか、ほとんど息は乱れていない。

ゆっくりと走るスピードを落とし、林の中を探そうとした時だった。道沿いにある一本の木がヴァルの目に留まる。その木には、一通の封書がナイフで刺してあるではないか。すぐさま駆け寄って封書を引きちぎった。

「師匠……。やってくれましたね……。」

ヴァルは封書の内容を確認もせず、ぐしゃりと握りつぶした。表に招待状と書かれていれば察しはつく。メラメラと静かに怒りがこみ上げてきた。

よくもまぁこうも大切な人を、次から次へと自分から引き離してくれるものだ。何故このような仕打ちを受けねばならないのか。何か落ち度でもあったのだろうか。育ての親でもある師匠の言いつけを守り、忠実に過ごしてきたというのに。

ティアの事にしても元はと言えば、ジョナが自分と婚約させたのではないか。なのに、王の側室にティアを差し出した真意が分からない。相応の理由があるのなら言ってほしかった。何故、自分が濡れ衣を着せられてまで犯罪者扱いされなければいけなかったのだろう。

そして、例え自分をおびき出すためとは言え、リュイを巻き込んだことは到底許せるものではない。いくら師匠でもやって良い事と悪いことがある。

「どうしてリュイまで……。師匠……。」

やるせない思いに押し潰されそうなヴァルは、ナイフが刺さったままの木に寄りかかり空を仰いだ。
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