魔法使い、拾います!
くっつきそうな距離で顔を覗き込まれ、穏やかな口調ながらも強引にたたみかけてくるヴァル。離れようにもこうもがっちりと肩を掴まれては、離れられない。しかも顔がくっつく寸前である。リュイはもうどうしていいやらパニックである。

「ちょっと顔近すぎ!」

慌てて反らしたリュイの顔からは火が噴き出してしまいそうになっていた。

今までまともに男の人と関わったことのないリュイは、こんな風に警戒心なく会話している自分にびっくりしていた。しかも相手は魔法使いなのに。

唯一近しい異性として思い浮かぶのは、幼馴染のララのお兄さんで2歳年上のグレンだけだ。しかしグレンに肩を組まれて顔を覗き込まれたとしても、照れたりはしないだろう。むしろ一緒に笑いあえる気がする。

それが幼馴染でお兄ちゃんという、気の置けない役どころである。

「あれ?もしかして照れていますか…?可愛いですね。」

「か…からかうのは止めてよ。さっきから何なの?」

怒ってはみたものの、リュイは冷静さを取り戻すのに必死であった。あんなに楽しみだったマーケットのことなどすっかり吹き飛んでいる。

「そんなに不機嫌にならないでください。」

「不機嫌にさせているのは誰?」

ヴァルは、ははっとリュイの言葉をはぐらかした。
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