魔法使い、拾います!
ティアはこれ以上ないほど、目を見開いて驚いた。先程高い位置にいる王を拝謁したばかりなのに、こんな執務室などで間近にお会いすることになろうとは。恐れ多いにも程がある。

その時、見計らったかのように入り口のドアが開く音がした。先に部屋に足を踏み入れたのはルトアンゼ王ピアである。シャルロットはソファーから立ち上がりピアを招き入れた。ティアは窓際に下がり膝を折る。

「よいよい。普段通りに致せ。今この時に限っては無礼講でいこうぞ。」

ピアはそう言いながらソファーへ進み、どかっと腰を下ろした。

「ジョナ、よいな?余も崩すぞ?」

「は……。御心のままに。」

ピアはおもむろに足を組み、ふぅと息を吐いた。そしてシャルロットに笑顔を向ける。

「で?王妃の話は終わったのか?言いたいことは言えたか?」

「はい。全て伝えました。後は陛下にお任せ致します。どうぞ良きように。」

シャルロットは窓際に控えたままで居た侍女に目配せをする。軽く頷いた侍女は足音も立てずにドアに近寄り静かに開けた。

「それでは陛下。私はお先に失礼致します。」

ドアは静かに閉じられた。それを確認すると、ピアはまたふぅと息を吐く。

「ティア。王妃から話のあった通りだ。心を尽くしてきたのだが、俺には王妃を解きほぐすことが叶わなかった。どうやら俺ではだめらしい。王族には自由がなくてな。せめてスフランにいる恋人と添い遂げさせてやりたいと思うのだ。人を想う自由くらいあってもいいだろう?」

「……王様がそう仰るのなら。」

ティアには他に答えてみようがなかった。しかし、それを承諾するという事は自分が王妃になることも承諾するということになるのではないか?
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