魔法使い、拾います!
ジャンに不意に抱きしめられて、ヴァルは体の中から込み上げて来るこの感情が分からなかった。横目で見てきたティアが奥様からされていた行為だ。師匠からは頭にポンポンと手を乗せられていた。

自分はそれが羨ましかったのだろうか?自分もしてほしかったのだろうか?

そんなつもりはないのに、涙が溢れ出て来る。

「俺は娘に自分の雑貨屋を継いでほしくて厳しく教え込んでいるけど、寝る前には必ずこうして大好きを伝えているからね。厳しくしていることに対して、娘から苦情を言われたことはまだないよ。きっとそこが俺と師匠の違いなんじゃないかな。君の師匠は君を大切に思っているけど、それを伝えるのが下手なんだね。」

「そ……そうなのかな……。」

「あぁ、そうだよ。でなければ、七色の高等魔法を受け継がせようなんて思わないさ。あれは教える方も大変なんだぞ。」

「え?どうしてそんなことを知っ…。」

慌ててジャンはヴァルの口に指をあてた。ちらりとキッチンを確認してから、キャラが今の会話を聞いていなかったことにホッとする。

「一応僕も使えるんだよ七色の魔法。魔法は心技一体だからね。修行を怠るとすぐに使えなくなってしまう。だからたまに立ち入り禁止のあの場所に行って修行をね。このことは俺たち夫婦だけの秘密なんだ。絶対に誰にも言わないでくれよ。娘にもだ。」

「ジャンさんは魔法使いなんですか?」

「……俺は雑貨屋だよ。とにかく·····ヴァル君!きみは今、とてつもなく大変な事を習得しようとしているんだ。体も心も辛いだろう。辛くなった時は、僕のぎゅーを思い出すといい。師匠もいつか褒めてくれるよ。」

「はい……。」
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