魔法使い、拾います!
項垂れて立ちすくんでいるヴァルを残して、ジョナは付き人と共に踵を返した。不機嫌な表情を崩すことなくすたすたと足早に歩いていたジョナだったが、滅多に出さない小さな声で恥ずかしそうに呟いた。

「おい……お前。ヴァルをどう思う?」

「ヴァル様ですか?ご主人様のご子息たるに相応しいお方だと思っておりますが。」

「そうか、相応しいか。」

「はい。ヴァル様は頭脳も、人柄も、外見も、申し分なく、なにより魔法使いの資質が群を抜いています。ヴァル様を知る者は、皆そう思っていると思います。」

「ふん、ならばよい。奴はまだ気づいていないが、他を圧倒する才能を持っているからな。しかし何より私はあれが、なんだ……その……可愛いくて仕方がないのだ。娘と結婚させてまで、無理やりにでも手元に置いておきたい。私の後継者はヴァルをおいて他には考えられんのだ。だが、他人のお前から見てもそう感じるのであれば、私の判断は間違っていないということか。」

「はい。全く問題ないかと存じます。」

付き人は初めてきいたジョナの本心に嬉しそうに微笑んだ。ジョナの不機嫌な表情からは想像できないほど、愛のある言葉だったからだ。背中越しに付き人の気持ちが伝わってきたのであろうか。

「少ししゃべり過ぎたようだ。今の話は他言無用に。」

と、厳格さを装って、咳払いをしながらジョナは付き人に口止めをした。

そんなジョナの本心など知る由もないヴァルは、ジョナの姿が見えなくなるまで呆然とその場に立ち尽くしていた。

「あっ……ペンダント。眠り姫とお揃いの……。返してもらわなきゃ!」

我に返ったヴァルは、真っ直ぐに師匠ジョナの付き人の元へと向かった。
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