魔法使い、拾います!
リュイはヴァルが何気なく言った単語に敏感に反応してしまった。

「……ティアって?」

「ティアは……。……。ティアは僕の……婚約者です。」

「……婚約者……?」

婚約者がいるんだ……。

そう思った瞬間、胸に何かがチクリと刺さった。この胸の痛みは何だろう。

「……リュイすみません。……失礼します。」

突然ヴァルはリュイの頬に自分の頬をくっつけた。瞬間リュイの顔にボッと火が点く。こんなことをされたのは初めてだ。

「もう!なんなの!そういうことを女の子に軽々しくしちゃダメでしょう!婚約者だっているくせに!」

ぐいーっとヴァルの顔を押し返す。

「ちらう、ちらう、ちらいまふよ。しぇつめいしらくてすみまふぇん。これはしつようなこうろうまんれす!(違う、違う、違いますよ。説明しなくてすみません。これは必要な行動なのです!)」

口元を押されてヴァルの言葉が歪む。

「まふぉううぉちゅかいたいんれす!(魔法を使いたいんです!)」

そういうことなら、と、リュイはヴァルの顔から手を離す。魔法と聞いてリュイは興味津々だ。ヴァルは空いている方の手で、マントの中から杖を取り出した。噂に名高い魔法使いの杖である。リュイはつい「うわぁ」と目を輝かせた。
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