魔法使い、拾います!
ティアはその悲しげな口元を一変させ、いたずらっ子のような笑みを漏らした。

「ね・む・り・ひ・め」

「っ……!」

「ほら……私たちが洞窟へ行って間もない頃、ヴァルったら洞窟を抜け出したことがあったじゃない。」

「な……なぜそれを知っているんですか?」

「あの日たまたま寝付けなくて、テラスに出てみたら偶然ね。そりゃもう、びっくりしたわよ。止めようかとも思ったけど、あの頃のお父様のヴァルに対する指導が常軌を逸していたからね。逃げ出したくなるのも無理ないかなって。帰って来たから良かったけど、すごく心配したのよ。」

「それはそれは……止めないでくれて、ありがとうございました。」

「どういたしまして。でね、その何日か後よ。修行していたときに偶然テントウムシを見つけたの。洞窟の中まで入って来るなんて珍しいじゃない。ヴァルの目にも留まったんでしょうね。あなた、そのテントウムシに嬉しそうに話しかけ始めたの、覚えている?」

「え……。僕、そんな恥ずかしい真似をしたんですか?」

「そうよ。『待っていてください、眠り姫。……僕がんばりますから。』って。私その時ピンときたわ。なる程、ヴァルが帰って来てから急にやる気になったのは、眠り姫のためなのねって。……その眠り姫がリュイさんなんでしょう?ペンダントを見てつながった。だからテントウムシに話しかけていたのね。」

ヴァルは何も言えず、何も出来ず、顔を赤らめて口をもごもごとさせた。

「今回は偶然の再会だったみたいだけど、これは運命よ。こんな偶然もう二度とないわ。掴みに行きなさい。リュイさんを好きなんでしょう?女性として。」

ティアの問いかけにヴァルはしどろもどろだ。自分の魔法使いとしての最終的な着地地点は、ティアとの結婚だと言い聞かせてきた。眠り姫は……リュイは……自分の人生に無縁な人なのだと諦めていたのに。

でももし、この腕の中にリュイを抱きしめることが叶うなら。
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