魔法使い、拾います!
ヴァルが取り出した杖は、持つ所がらせん状になっていて、その先は先端に向かって真っ直ぐ細くなっている。見た目は黒檀のように黒く艶めいた重厚なものだ。

「リュイはご自宅を思い浮かべて下さい。頭の中に映像化するんです。強くその風景を念じて。僕はそのイメージを受け取ります。」

リュイは言われる通りに自宅を頭の中に思い描いた。それを指示したヴァルは失礼と言って、またもリュイの顔に自分の顔をくっつける。

「そのまま続けて下さい。リュイの自宅へ飛びます。」

「え?ちょっと…まさか…。私、拾わないよ!」

リュイの抵抗むなしく、ヴァルは目の前に杖を掲げた。握っているらせん状の部分から七色の光が発せられ、その光はテントウムシが茎を登っていくかのように黒檀の真っ直ぐな部分を這っていく。

「往生際が悪いですね。さぁ、僕にしっかりつかまっていて下さい。」

リュイがつかまるというよりは、ヴァルにぎゅっと包み込まれる体勢になる。状況が特殊ではあるが、こんな風に男の人に力いっぱい抱きしめられるのは初めてだ。苦しいのに……心地いいだなんて……。

「移動。」

力強く、でも静かに、ヴァルが一音を唱えた。瞬間、リュイの目の前の杖から七色の光が勢いよく弾け飛ぶ。

ものの三秒ほど視界がチカチカとしていたが、それが晴れると驚いた。

「着きましたよ。リュイの家で間違いありませんか?」

リュイが住み慣れた家が、そこにあったから。
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