ベターハーフ(短編集)
その胸の高鳴りは初恋にも似て
【その胸の高鳴りは初恋にも似て】
友だちが結婚するらしい。
別の友だちは来月結婚式を挙げる。
また別の友だちは妊娠中。
またまた別の友だちは先月二人目を産んだ。
二十代も半ばを過ぎると、そういうおめでたい話が立て続くもので……。
健太くんと付き合い始めて三年ちょっと。結婚、とか。考えていないわけじゃない。
たぶんこの先も健太くんと一緒にいるんだろうなって思う。
結婚を焦っているわけではないけれど、幸せそうな友人たちを見ると、わたしもそうなりたいなって考えてしまう。
今日も夕飯を食べに来た健太くんは、わたしのベッドを占領して、わたしの本棚からごっそり抜き出してきた小説を読み耽っている。
このひとはこれからのこと、どう思っているのだろうか。
「……ねえ、健太くん」
「んー?」
「その本、面白い?」
「めっちゃ面白い。おれもこれ買おうかな」
「わざわざ買わなくても。貸すよ?」
「いや、飯食いながらとか風呂入りながらとか寝る直前とかに読みたいじゃん。借りたら絶対汚しちゃうし」
「その小説の犯人はー」
「ちょ、待て待て! 絶対言うなよ! 絶対だぞ!」
「犯人はー」
「違う違う! 振りじゃないから! 絶対押すなよのノリじゃないから!」
「言うわけないじゃん。健太くん、ネタバレだめな人だし」
「なんだよもうー……」
クッションを投げることで抗議した健太くんは、ごろんと仰向けになって読書を再開する。
横顔が綺麗だ。いやいや、正面から見ても綺麗だけれど。
付き合い始めて三年。片想い期間を含めると五年。知り合ってからだともっと長い間。健太くんの近くにいるけれど、飽きるどころかますます好きになった。
ああ、わたしは本当にこの人が好きなんだなって思う。