ベターハーフ(短編集)
「俺お腹空いたよ」
「はいはい、今作るよ」
「オムライス食べたい」
おや。デジャヴ。
夢と現実、両方でリクエストされたオムライスを作って、「お腹と背中がくっつくー」と駄々をこねたから、スープはインスタントで我慢してもらって、ふたり揃って食卓につく。
いつも通り京平は、美味しそうにぱくぱくとオムライスを口に運ぶ。
今日はこんなことがあったよー、なんて他愛のない雑談をしながら、いつも通りの夕食風景。
ただひとつ、いつもと違っていたのは……。
ふ、と。京平が手を止めて、思い出したようにポケットを漁る。
そして何かを取り出して、ぶっきらぼうにテーブルの上に置いたのだった。
「これあげる」
「……は?」
それは、きらきら光る宝石がついた、指輪。見るからに高そうな指輪だった。
え、なにこれ。なんなの、急に。こういうものって上等な箱に入っているものじゃないの? 普通にポケットから出てきましたけど。どうしてポケットにそのまま入っているの?
困惑しながら京平と指輪を交互に見て、首を傾げる。
「あの、京平さん、これは……」
「指輪だけど」
京平はいつも通り、平和な笑顔。
「指輪、ですね……」
「結婚しようか」
「……は?」
「結婚しよう」
もう一度にっこり平和に笑うと、京平はまたオムライスをぱくぱくと口に運ぶ。
あれ、もしかして今「結婚しよう」って言った? ならこれは、婚約指輪?
ていうか、プロポーズ? 世に言うプロポーズって、なんかもっとこう……ロマンチックな、真剣で深刻で神聖な雰囲気のものじゃないの?
「あれ、もしかしてノーだった?」
再び手を止め、きょとんとした顔で京平が言う。
なんという自信家。こんなに突然のプロポーズでも、失敗するはずがないと思っていたのか。いや、自信家というより楽天家なのかもしれない。何よりこんな軽いプロポーズが、京平らしい、と思ってしまった。
これが、わたしの恋人。これが、わたしが好きになった京平だ。
「結婚、しよっか」
そう言って左手を差し出すと、京平は置かれた指輪をわたしの指にはめる。いつの間に調べたのか、サイズはぴったりだった。
そしてふたり同時に、食事を再開した。
プロポーズも、こんな平和な雰囲気も、京平らしくて、わたしたちらしい。
それはきっと、「恋人」から「夫婦」へと肩書きを変えても、変わらないだろう。