ベターハーフ(短編集)
初恋は色鮮やかに輝く
【初恋は色鮮やかに輝く】
ソファーで仰向けに寝転んで、左の手のひらをかざす。
母指球にうっすらと見える黒い点。これは十五年前、わたしが確かに初恋をしたという証。これを見ると、いつでも初恋を思い出すことができる。
元々は大嫌いなクラスメイト。髪を引っ張られたり教科書に落書きをされたり名前を馬鹿にされたり……。
些細な嫌がらせだったけれど、それでも嫌いになるには充分だった。同じクラスになってたった数ヶ月で、もう顔も見たくないくらい、修復不可能なくらい最悪の関係になったのに。ある日、事件が起こった。
その日は買ってもらったばかりのふで箱を持って行っていた。友だちはみんな羨ましがって、わたしも気分が良くなっていたというのに。いつものようにあいつがやってきて、いつものように馬鹿にしたのだ。
いつもは聞き流せるのに、その日ばかりはやたらと腹が立って、やつの頬に平手打ちをした。そしたらやつも激怒して大乱闘。突き飛ばされた拍子にふで箱が落ち、散らばった鉛筆の上に倒れたら、左手に激痛が走った。
削ったばかりの鉛筆の芯が突き刺さっていた。
騒然とする教室で、痛みに耐えながらやつを見上げた瞬間、はっとした。
いつも嫌味っぽい笑みを浮かべていたのに、今は違う。悲しそうな、苦しそうな、切なそうな、変な顔をしていた。
不思議なくらい目が離せなくなって、ああこんな顔もできるんだ、と思ったら、急にやつを好きになった。
痛い思いをした結果初めての恋をするなんて。当時のわたしはマゾヒストだったのかもしれない。