美育
今の私には優しかいないんだ..
そんな事考えてたら、馬鹿みたいに涙が出てきた。
カッコ悪い..
でも、優は、こんな私を受け入れてくれるのかな..
優は、一人暮らししてるんだ。
高校生で一人暮らししてるなんて、最初聞いた時はうらやましかったけど、優の家も、なんか色々複雑みたい。
優とは、今まで色んな所に行って、色んな話をしてきたけど、私が優の家族の話をしようとすると、優は一瞬にして顔が曇った。
黙り込んで、いつも遠くを見ていた。
だから、私は、優には家族の事は聞かない。
優も私には聞いてこない。
「寒い..」
冬だから、寒いのは当然なんだけど、たぶん、17年生きてきて、今年の冬は一番寒い。
気のせいなんかじゃない。
家を飛び出したから?優が受け入れてくれるか不安だから?人恋しいから?
それもそうかもしれないけど、なんか、体中に、
「馬鹿な不良娘」
って、言葉が突き刺さるようで..
道行く人の視線が、皆、私を嘲笑っているようで..
普段は、必ず座り込んで、よしよしって頭を撫でる犬や猫でさえも、私を避けているように見えて、怖くて近寄れない。
噛まれたら痛いもん。
あぁ、私は、間違いなく今、この地球上の17才の中で、一番愚かだ。
鼻歌を歌って、気を紛らわそうか。
口笛でもいい。
お母さんに、、
お母さんに、小さい頃、口笛教わったもん..
駄目だ、余計に駄目だ。
寒い、寒いよ、優..
いくら優でも、
「私、家を出たから、今日からここに泊めて」
なんて、前フリなしに行ったら、ビックリするだろうな..
でも、電話して、
「それはできない」
って言われたら、もう、それは絶望。
私には何もなくなっちゃう。
どうしよう..
とりあえず暖まろう。
手袋してこなかったから、指が曲がらないや..
あぁ、コンビニがある..
こんなにコンビニを有り難く感じた事があっただろうか..
だってさ、だってさ、
コンビニって、よく考えたら、ワンダーランドだよね。
24時間開いてて、中に入れば、冬は暖かいし、夏は涼しい。
食べ物だって、飲み物だって、私の好きなチョコとか、さきいかとか、ファッション雑誌とか、何でも置いてある。
しかも最近は、店内に座席があって、そこで、ごはん食べたり、本読んだりできるし。
もう、この制度考えた人に、絶対に国民栄誉賞あげるべきだと思う。
そんなこんな考えてたら、私が、この先生きてる限り、生涯、憧れ続け、目標にするであろう人と目があった。
そう、ファッション雑誌「PINK」のカリスマモデル、「相田ジュン」さんだ。
やばい、素敵すぎる、綺麗すぎる、可愛いすぎる..
思わず、雑誌を手に取り、ジュンさんのページを読みふける。
「あぁ、私もこんなに可愛いかったら、人生変わってたよなぁ..
ジュンさんの顔の、ほんの一部でいいから、神様のいたずらで、私に降りてこないかしら。」
そんな事を思いながら、顔を上げ、目の前のガラスに映る自分を見つめる。
「私、やっぱり、お母さんに似てるのかな..」
とにかく私は、周りから、お母さんに似てると言われる。
昔はそれが嬉しくて仕方なかったけど、今は自分の顔を、かきむしりたい様な気持ちになる..
「この顔を、優は、可愛いって言ってくれる..」
電話しよう。
大丈夫、絶対。
スマホを手に取る。
優とのLINEの背景は、二人でボウリングに行った時のツーショット。