ハルとオオカミ
「念のため言うけど、サボっちゃだめだからね?」
「んー」
返ってきたのはやる気のない生返事。
私の方を振り返りもせずにそのまま自分の席へ戻って、机に突っ伏した。
五十嵐くん、この前の課外学習もサボったからな……。あやしいな……。
でも、話しかけてもらえた。今月に入って初めてだ。
うれしい。『河名さん』って呼んでもらえるの、何度聞いてもニヤニヤしちゃう。
今日も信じられないほど格好いいな。ちょっと寝グセがついてるけど、それもまた可愛い。
なんかいつにもまして眠そうだけど、寝れてないのかな。大丈夫かな……。
一年前の入学式後、何かと授業をサボりがちな五十嵐くんに授業プリントを渡したり、行事について教えたりとお節介を焼いたりしているうち、ときどき、本当にときどきではあるけど、こんな風に世間話くらいはできる仲になれた。
この学校で彼に話しかけるのは私くらいなので、何かあったらこうして向こうから聞いてくれるようになったし。
この一年もそんな風に密かに彼を見つめて、月に何度かお話できたらいい。多くは望まない。アイドルは遠くから見つめて、ときどき近づいて悶えるくらいでちょうどいいのだ。