ハルとオオカミ
……でも、趣味とかそういうの、全然知らないや。
私はただ、『学校内での』友達ってだけだもんな。学校から出た彼を私はよく知らない。
五十嵐くんは、私の知らない世界を持ってる。自由で気高い狼は、こんな狭い学校社会なんかに縛られない。
この教室よりずっと広い外の世界で、色んなものを見てるんだ。そこでも彼は、いつも堂々と立ってる。ここで生きるのに精いっぱいな私とは違う。
だからこんなにもこのひとに憧れるんだ。
シャーペンを動かす彼の様子を目を細めて見つめていたら、ふいに彼の手が止まった。
「……あー。自然体なの、特にはるといるときかも。はるの顔見てたら、なんかぜんぶどーでも良くなんだよね」
「……それって、なんか微妙じゃない?」
「えー? そんなことないだろ。だから言ってんじゃん、和むって」
五十嵐くんは穏やかに笑う。目を伏せて、下を向いて、喉の奥で慈しむように。