ハルとオオカミ
「よかったねー。話しかけてもらえて」
いつのまにかアキちゃんがニヤニヤしながら私を見ていた。
慌てて「べつに」と言って緩んでいた表情を戻す。
「隠さなくていいのに。好きなんでしょ?」
「そういうんじゃないって何度も言ってるじゃん」
私の五十嵐くんへの思いはあくまで『憧れ』だ。恋愛的な意味の『好き』ではない。
ファンの域を超えない。超えちゃいけない。
これは、入学して少し経ってから私が私に課したルールだ。
あくまで『委員長』として。
委員長がクラスの問題児にお節介を焼いてる。周りからはそう見えるように。
私が五十嵐くんを密かに見つめていることは秘密。
とはいっても、さすがにずっと一緒にいるアキちゃんにはすぐバレたけど。
この思いは私の中に大事にしまっておくんだ。外に出したらどんな風に形を変えるかわからないから。私は今の形のままがいい。
アイドルに本気で恋するなんて不毛すぎる。
せっかく見つけた心のアイドルを、私はかなしい気持ちで見つめたりしたくない。
*
放課後。
私とアキちゃんはクラスメイトの女子たちに誘われて、一緒に駅前に来ていた。
なんでも新しくカフェができたとかで、そこのパンケーキが評判らしい。
アキちゃんはあまり甘いのが得意ではないんだけど、まだ新しいクラスになりたてだからクラスの女子たちと仲良くなりたいってことで、一緒に行くことになったんだ。
「ごめん、ちょっとお手洗い行ってきていい?」
駅の中を歩いていたら、アキちゃんが申し訳なさそうにそう切り出した。