ハルとオオカミ
「きりーつ」
いつも通りの号令。
いつも通りの笑顔。
いつも通りの「おはよう」。
……今日はなんだか、それがずるいことのように思えた。
「で、はる! 昨日、何があったの」
昼休み。私は教室でアキちゃんに昨日あったことを簡単に話した。
五十嵐くんは昼休みの時間、決まって教室にいない。たぶん今頃、特別教室棟のところで猫を眺めながら昼食中だろう。
「なーるほどねえ……」
アキちゃんは私の話を真剣に聞いてくれた。
五十嵐くんのお友達に会ったこと。
彼女に嫉妬してしまったこと。
五十嵐くんと距離を感じたこと。
好きになっちゃいけないって思うあまり、気まずくなってしまったこと。
……だけどもう、友達だけじゃ足りないってことも。
それらを話す私の表情が沈んでいたからか、アキちゃんはいつものように茶化したりしなかった。