ハルとオオカミ
きっと五十嵐くんにとって私は、学校で話せる気楽な友達、だった。
二人の間には敵意も恋情もない。『よいお友達』の関係。
だけど私があのとき、彼を『男の子』として強く意識してしまったから。
居心地のいい関係では無くなってしまったかもしれない。面倒くさく思ってしまったかもしれない。
不安な気持ちが心に覆いかぶさる。いいやネガティブ思考は駄目だと自分に言い聞かせながら、教室を出た。
今日が駄目なら明日……と思ったけど、明日は土日だと気づいて落ち込んだ。
できれば日にちを空けたくない。早く仲直りして、『はる』って呼ぶ大好きな声が聞きたいのに。
「――はる」
その声が聞こえた瞬間、すべての思考が止まって、私は顔をあげた。
昇降口の扉に寄りかかって、靴箱の前にいる私を見ているひと。
――五十嵐、くん?