ハルとオオカミ



「……うそ。なんで……」


彼はいつものようにまっすぐ私を見ていた。

そらすことを許さない、気高い狼の強い瞳で。


「待ってた」

「……え」

「はる、待ってた。最近、はるとばっか帰ってたから、なんかひとりで帰んの落ち着かなかった」

「…………」

「一緒に帰れる?」


私はすぐに返事ができなかった。

彼の顔を見ていると大声で泣きだしてしまいそうで、俯いた。色んな感情が爆発してしまうのを必死でこらえる。


五十嵐くんが私を待っていてくれた。信じられない。嬉しい。まだ私と帰ってくれるんだ。私が昨日、あの穏やかな関係を壊したのに。優しい。優しい。……好き。



……本当はずっと、好きにならないように必死だった。



きっと叶わないから。釣り合わない自分を実感して、泣くばかりになってしまうから。

自分の心にブレーキをかけて、自惚れないように。勘違いしないように。これはただの憧れだからって言い聞かせて。



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