ハルとオオカミ
でも。目の前の彼は今、私だけを見つめてる。他の誰でもない私のことを待ってくれている。
……そんなの、落ちちゃうに決まってるよ。
「……帰る。五十嵐くんと帰る……!」
目をぎゅっとつぶって、涙をこらえながら声を絞り出した私の姿は、さぞ格好悪かっただろう。
五十嵐くんはそんな私を見て、仕方がないなって風にフッと笑った。情けない顔で靴を履いた私の頭をぽんぽん撫でると、先に歩き始める。
私はその背中を追いかけるように、校舎を出た。
*
「テストどーだった?」
私が隣に並んで歩き始めると、五十嵐くんは自然な感じで話題を振ってくれた。
「俺、完全に終わったーとか思ってたけど、案外良かったわ。つか、数Bが89点なのヤバくね? 過去最高なんだけど」
私はその優しい声を聞くとなんだかさらに涙が出てきてしまって、必死に上を向いたりしながら「すごい」とか「よかったね」しか言えなかった。
「はるは?」
「古文が98点で、数Bが95点……」
「うわ、すげえな。さすが」
五十嵐くんは下を向くと、目を伏せて無邪気に笑った。わずかに覗いた八重歯が可愛い。