ハルとオオカミ



でも。目の前の彼は今、私だけを見つめてる。他の誰でもない私のことを待ってくれている。



……そんなの、落ちちゃうに決まってるよ。



「……帰る。五十嵐くんと帰る……!」



目をぎゅっとつぶって、涙をこらえながら声を絞り出した私の姿は、さぞ格好悪かっただろう。


五十嵐くんはそんな私を見て、仕方がないなって風にフッと笑った。情けない顔で靴を履いた私の頭をぽんぽん撫でると、先に歩き始める。


私はその背中を追いかけるように、校舎を出た。







「テストどーだった?」



私が隣に並んで歩き始めると、五十嵐くんは自然な感じで話題を振ってくれた。


「俺、完全に終わったーとか思ってたけど、案外良かったわ。つか、数Bが89点なのヤバくね? 過去最高なんだけど」


私はその優しい声を聞くとなんだかさらに涙が出てきてしまって、必死に上を向いたりしながら「すごい」とか「よかったね」しか言えなかった。


「はるは?」

「古文が98点で、数Bが95点……」

「うわ、すげえな。さすが」


五十嵐くんは下を向くと、目を伏せて無邪気に笑った。わずかに覗いた八重歯が可愛い。



< 134 / 188 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop