ハルとオオカミ
「駅員さーん、喧嘩です!」
するとそのとき、遠くからアキちゃんの声がした。
その言葉に驚いたのか、五十嵐くんにつかみかかっていた男子の手が離れた。「やば、行こうぜ」と慌てた様子で男子たちが逃げていく。
「みんな大丈夫!?」
目の前の展開にただただ驚くしかない私たちのもとへ、アキちゃんたちが焦った顔をして駆けつけてきてくれた。
「う、うん……大丈夫だよ。ありがとう、アキちゃん」
「ううん。本当に駅員さん呼んだわけじゃないけどね……よかったよ、逃げてくれて」
みんなで無事を確認し合うと、自然と視線は五十嵐くんの方へ向かった。すでに五十嵐くんは入り口を通ろうと歩きだしていた。
「……い、五十嵐くん! ありがとう」
慌ててお礼を言うと、彼は顔だけこちらへ向けた。
「別に。俺は言いたいこと言っただけだよ、河名さん」
それだけ言って、五十嵐くんは去っていく。
私はその後ろ姿をガン見しながら、そのぶっきらぼうな声色と『河名さん』の優しい呼び方のギャップにキュン死寸前だった。
本日2回目の『河名さん』。今朝よりちょっと冷たい声色の『河名さん』……!
内心興奮している私とは裏腹に、周りの女子たちの反応は冷ややかだった。