ハルとオオカミ
ちらりと私のうしろの五十嵐くんに目をやってから、私の机に手をつく。
五十嵐くんはすでに机にうつぶせてお休みモードだ。十分休憩で毎回仮眠がとれるのは素直に羨ましい。
「今、どんな気分?」
「……心臓と表情筋が……持たない」
「あー。『待って、無理』状態ね。わかる。あたしもライブでアリーナ席当たったらそうなる」
「号令かけたときの私、変じゃなかった? 大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。てか平静でいられるのすごいわ。あたしだったら絶対無理。その場で叫んで鼻血吹いて無事死亡」
私だって脳内では発狂した屍が授業中数えきれないほど誕生しちゃったよ!
こうやって私が頭を悩ませている中も、五十嵐くんはのんきにぐうすか寝ている。
うう。人の気も知らないで……。でも寝顔をこんな近くから見られるなんてすごい。は、鼻血出そう。
「次の席替えまで耐えられるかな……私」
無理な気がする。今までは授業中にうしろ姿を見て密かにニヤニヤしていればよかったのに、今はうしろ姿を盗み見するどころか、振り返れば目が合う距離にいるんだもん。