ハルとオオカミ


「河名さん、歩き?」

「あ、うん」

「家まで送るわ」

「ええっ! いいよ、悪いよ」

「なんで。さすがにこの時間帯に女子ひとりで帰らすわけないだろ」

「……ありがとう……」

「ん」


うわー、うわー!

家まで? 家までって、あと三十分くらいふたりきり? ほんとに?


脳内パニックになる私をよそに、五十嵐くんは靴箱で靴を履き替えてどんどん進む。


ひええ、頭の処理が追い付かない。

五十嵐くんと一緒に帰れる日が来るなんて。ほんとに罰が当たりそう!


私がわたわたしながら靴を履き替えている間、先に昇降口を出ていた五十嵐くんはこちらを見て待ってくれていた。


その姿が、この前、駅の出入り口で声をかけてくれた五十嵐くんと重なった。


「あ……あの、五十嵐くん」

「ん?」


靴を履いて駆け寄ると、穏やかな声が返ってくる。瞳はいつだってまっすぐで力強いのに、声が柔らかいのは非常にずるいと思います。

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